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きょうゆう
梟雄
「文藝春秋 第三一巻第八号」1953(昭和28)年6月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,160 字 · 31 页
ところが私のはそうではない。漏斗を使う代りに、この一文銭の孔を通して一滴もこぼさずに桝から壷にうつしてしまう。そればかりではない。一文銭の孔のフチに油をつけることもなくうつしてみせる。もしちょッとでも一文銭に油がついたら代はとらぬぞ。さア、一文銭の油売り。買ったり」
ひそかにみがいていた手錬の妙。見事に一滴も一文銭に油をつけずにうつしてしまう。これが評判となって、人々は一文銭の油売りを待ちかねるようになり、ために他の油屋は客が少くなってしまった。彼はこの行商で大利をあげ、多額の金銀をたくわえた。
行商で諸国を歩きつつ、彼は諸国の風俗や国情や政情などに耳目をすませた。また名だたる武将の兵法や兵器や軍備についても調査と研究を怠らなかった。一文銭の孔に油を通す手錬なぞは余技だった。彼は自分の独特の兵法をあみだした。
それはまったく革命的な独創であった。それは後日織田信長がわがものとして完成し、それによって天下を平定した兵法であった。元祖は一文銭の油売りだ。
その兵法の原理は単純である。最も有利な武器の発見とそれを能率的に使用する兵法の発見とである。
それは兵法の一番当り前の第一条にすぎないけれども、とかく発見や発明に対する本当の努力は忘れられているものだ。