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かんおけのはなよめ

棺桶の花嫁

海野 十三

「ぷろふいる」1937(昭和12)年1~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,845 字 · 86 页

青空文庫

「どう、あなたァ、――」

男は、女の束髪すがたを、目をまるくしてみつめていた。

「あんたってば、無口なひとネ」

「いや、感きわまって、声が出ない」

男は両手を拡げた。

女はその手を払うようにして、男の肩を押した。

「さあ連れてってよ、早く早く」

若い二人は、身体を重ねあわせるようにして、狭い階段をトントンと下に下りていった。

そこには蚊取り線香を手にした下のお内儀がたっていた。

「おばさん、ちょっと出掛けます」

「あーら、松島さん、お出掛け? まあお揃いで――。いいわねえ」

「おばさん、留守をお願いしてよ」

「あーら、房子さん。オヤ、どこの奥さんかと見違えちゃったわ。さあ、こっちの明るいところへ来て、このおばさんによく見せて下さいな」

「まあ恥かしい。――だって、あたし駄目なのよ、ちっとも似合わなくて。ホホホホ」

房子は顔を真赤にして、下のお内儀の前を駈けぬけるように玄関へとびだしていった。お内儀の目には、房子の夏帯の赤いいろが、いつまでも残っていた。そして誰にいうともなく、

「ほんとに女の子って、化け物だわネ」

といった。

松島準一と房子とは、京橋で下りた。そこには大きいビルディングがあって、そこの二階ではキャフェ・テリアといって自分で西洋料理をアルミニュームの盆の上に載せてはこぶというセルフ・サーヴィスの食堂があった