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かんおけのはなよめ
棺桶の花嫁
海野 十三
「ぷろふいる」1937(昭和12)年1~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,845 字 · 86 页
ミチミは何処かへ、難をさけたのであろう。
立て札もなければ、あたりに見知り越しの近所の人も見えない。
彼はこの上、どうしてよいのか分らなかった。
――が、考えた末、焼け鉄棒を焼け灰のなかに立てると、それに彼の名刺をつきさした。名刺の上には、「無事。明三日正午、観音堂前ニテ待ツ。松島房子ドノ」と書いたが、また思いかえして、それに並べて、「小山ミチミ殿」と書き足した。
お千は、この一伍一什を、黙々として、ただ気の毒そうに眺めていた。
「家族はまだ、焼け跡へはかえって来てないらしい。――じゃ、こんどはいよいよ、あんたの家の方へ行ってみよう」
杜はそういって、そこを立ち去りかねているお千をうながした。
それから二人は、焼け落ちた吾妻橋の上を手を繋いで、川向うへ渡った。橋桁の上にも、死骸がいくつも転がっていた。下を見ると、赤土ににごった大川の水面に、土左衛門がプカプカ浮んでいた。その数は三、四十――いやもっともっと夥しかった。
こうなると、人間というものは瀬戸物づくりの人形よりも脆いものであった。
さて川岸づたいに、お千の住んでいた緑町の方へいってみた。惨状は聞いたよりも何十倍何百倍もひどかった。