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かんおけのはなよめ

棺桶の花嫁

海野 十三

「ぷろふいる」1937(昭和12)年1~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,845 字 · 86 页

青空文庫

そして自分も、すっかり気力を失って本当に夫婦心中をしようと思っていたらしい気がしてくるのだった。不思議な気持ちだった。もちろん後で考えると、それは震災の大きなショックから来た神経衰弱症にちがいなく、莫迦莫迦しいことではあったけれども――。

お千は、彼の首に廻していた両腕を解いて、おせっかいな通行人の薦めるとおりに、下に下りた。しかし彼女はいきなりワーッと大きな声をあげると、杜の胸に顔を埋めて泣きつづけた。

「可哀想に――。無理もねえや。妙齢の女が桐の箪笥ごと晴着をみな焼いちまって、たったよれよれの浴衣一枚になってしまったんだからなァ」

と、同情の声が傍から聞えた。二人は全く夫婦心中者に見られてしまったらしい。

杜はお千の背中を抱いたまま、不思議に自然に、その場の気分になっていた。が、そのとき不図頭を廻して横を向いたとき、彼は卒倒せんばかりに愕いた。――

「おお、ミチミ――」

ミチミが生きていた。ミチミは彼のすぐ傍にいた。僅か一本の太い鉄管を距てて、その向うにいた。鉄管の上に両手をのせてジーッと二人を見詰めていた。すべてを彼女は見ていたのだろうか。

ミチミの顔は真青だった。