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かんおけのはなよめ

棺桶の花嫁

海野 十三

「ぷろふいる」1937(昭和12)年1~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,845 字 · 86 页

青空文庫

「おお、生ビールがあるじゃないか。こいつはいい。一杯やろう」

杜は思いがけない生ビールの店を見つけて舌なめずりをした。彼はお千を手招きして、二つのコップの一つを彼女に与えた。杜の腸に、久しぶりのアルコールがキューッと浸みわたった。なんとも譬えようのない爽快さだった。

彼は更にもう一杯をお代りした。

お千はコップを台の上に置いて、口をつけそうになかった。

「お呑みよ。いい味だ。それに元気がつく」

そういって杜はお千にビールを薦めた。お千は恐る恐るコップに口をつけたが、やはりうまかったものと見え、いつの間にかすっかり空けてしまった。しかしもう一杯呑もうとは云わなかった。

三ばいの生ビールが、杜をこの上なく楽しませた。思わない御馳走だった。震災以来の桁ちがいの味覚であった。彼はお千に、では帰ろうと云った。お千は、ちょっと待ってと云いながら、ビールを売る店のお内儀にコソコソ耳うちしてそのうしろの御不浄に出かけた。

やがて二人は、小暗い道を、ソロソロ元来た方に引返していった。

雷門を離れると、もう真暗だった。そこで買って来た提灯をつけたお千は吾妻橋の脇の共同便所の前で、杜を待たせて置いて、また用を達しに入った。