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しいのき

椎の木

豊島 与志雄

「赤とんぼ」実業之日本社、1946(昭和21)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,002 字 · 13 页

青空文庫

いつまでも動きませんでした。

猫はまた右手を出しかけて、やめました。

――おかしな奴だな。生きてるのか死んでるのか、さっぱりわからん。

猫は虫をかいでもみないで、椎の木の根もとの方へ行きました。

だいぶしばらくして、こがね虫はしずかに頭をもたげ、足をのばしました。そしてはいだしました。

凧糸が地面にのびてるそのわきを、すれすれに、こがね虫ははってゆきました。先の方になると、糸は椎の木から落ちて不規則にこんぐらかっています。そこまでたどってゆくと、こがね虫は立ちどまりました。立ちどまって、みじかいしょっかくだけを動かして、しばらく考えました。

――はてな、どうしたものかなあ。どちらへ行くとしようか。

こがね虫は迷ったあげく、羽をひろげて、飛びあがりました。ぶーんと羽音をさして、まっすぐに飛んでゆきました。そしてすぐ、その姿は見えなくなりました。

こがね虫のかわりに、椎の古葉が一枚、ひらひらとまい落ちてきました。その古葉が落ちたあたりに、ほかの落葉の上に、三毛猫はもうまるくなって眠っていました。そこはあたたかく日がてっていました。

椋鳥の群れはまだ戻ってきませんし、あたりはおだやかで静かでした。