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つばきのはなのあか
椿の花の赤
豊島 与志雄
「公論」1940(昭和15)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,755 字 · 22 页
また、そうやたらに、この「やたらに」もおかしいが、やたらに妊娠するような女には精神的に反撥を覚ゆるというのである。――これはまあ私にも同感のいく事柄で、反対も出来かねたし、第一、私はまだ野田沢子に一度も逢ったことがなく、ただ、短歌雑誌や婦人雑誌の編輯をエキストラとして手伝ったりしてる女で、顔立は普通、痩せ型の中背、髪は短くカールし、派手な洋装をしたりじみな和服をきたりしているという、それだけのことを聞き知ってるに過ぎなかった。だがこの肖像は、「やたらに妊娠する女」とは見えなかったし、またそれを裏書きするような不平を別所は洩らし始めたのだった。
「互に逢っても、愛情のことだとか、心の持ちようとか、そんな方面の話は少しもしないで、支那問題だの、非常時の女の生活だの、世界の情勢だの、戦争論だの、そんなことばかり話す女を、先生はどう思われますか。」
「そりゃあ君、いくら恋愛の仲だって、始終愛情のことばかり話すわけにもゆくまいじゃないか。」
「そんなら、愛情のことは一言も云わないで、やたらに妊娠ばかりする女をどう思われますか。」
「また妊娠問題か。おかしいね。もうおなかに子供でも出来たのかい。