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けんりょくのひげき
権力の悲劇
宮本 百合子
「婦人公論」1949(昭和24)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,912 字 · 10 页
すっきりとした初夏の服装で、大きめのハンド・バッグを左腕にかけ、婦人兵士の最後の列の閲兵を終ろうとしている王女エリザベスの目の下に、一人の婦人兵士が直立不動で立っていたその地点から足をはなさないまま、失神して仰向けに倒れている。白手袋をはめたエリザベスの両手は、ショックにたえている表情でかたく握りあわされ、おのずと倒れている同性に視線の注がれている彼女の顔じゅうには、そのような事態を遺憾とするまじめさがたたえられている。しかし、閲兵する王女としての足どりは乱れず、倒れている女性を寸刻も早く救うために、どんな合図の身ぶりも示されていないのである。そのスナップには「写真班は、救急班の到着を待ちかねた」という意味のスクリプトがついている。
王女の生活の公式の面と私的な面とは、右の手と左の手のようなもので、聖書の文句にあるとおり、右手のなすところを左手にしらしむるなかれという関係におかれているのだろうか。
こういう人間性の分裂と矛盾が、現代の権力あるものの避けがたい立場だというならば、最近の百二十年たらずのうちに、権力そのものの実質がゲーテの讚えたような属性をまったく失ってしまっている事実を物語る。