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じゅいんざっき

樹蔭雑記

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,566 字 · 10 页

青空文庫

数冊の本の中に、安成二郎氏の恋の絵巻という本がある。その表題に一寸母上が何故其を送ってよこされたかが疑われた、が、目次を見て、其中に自分の事が書いてあるらしいので、送られた理由が分った。

読んで見ると、好意のある文句で、自分の未来を期待して居る文句がある。

多分母上は其を見て、私にも送って見せてやりたいと思われたのだろう。

フト心に陰がさした。

翌日読んで、思わず考えに耽った、戯作三昧の馬琴の心持を、又思い出さずには居られない。

馬琴は、何も、眇の小銀杏が、いくら自分を滅茶にけなしたからと云って、「鳶が鳴いたからと云って、天日の歩みが止るものではない」事は知って居るのである。よく分って居るのである。

けれども、けなされれば心持の悪いという事実は瞞着するに余り自明である。

其の気分を読んで、自分は思わず溜息をついた。そうだ。真個にそうである。

何に、彼那人が彼那事を云ったって、自分の生命の価値に何の損失も与える事は出来ないのだ、とは思う。又思うのみならず其を信じて疑わない。けれども、信じ安じるべきであるに拘らず、その不愉快さは依然としてドス黒いかたまりを、朗らかな胸中に一点の波紋を保って存在して居るのである。