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いきふどう

橘外男ワンダーランド 怪談・怪奇篇

橘 外男

橘外男『橘外男ワンダーランド 怪談・怪奇篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:生不動、逗子物語、仁王門、蒲団、亡霊怪猫屋敷。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 198,400 字 · 387 页

青空文庫

そして、吉蔵にむりにひきずられ、毛をさかだてて、牙をならしている五郎丸のすがたは、もしこれが口がきけるものなら、

「あなたがたは、なにもしらないからわたしばかり叱っていますが、この婆アの正体をお知りになったら、それこそ、びっくり仰天してしまわれますよ」

と、無念がっていたのかもしれません。

ひきずられていく五郎丸を見ると、はじめて満足したように、老婆はニヤリとうすわらいをもらしましたが、やせおとろえて骨ばった顔、むきだした乱ぐい歯、それが玄関の灯影にうつってチラチラとゆれるものすごさは、まるで芝居の鬼面そっくり……。

ながめていた平松看護婦も、思わずゾッとして、背筋に氷のはしるような気持になりました。

それにしても、この老婆はなんとやつれているのでしょう。まるで骨と皮ばかり……。

あぶらっけもない白髪は、雨にうたれてしずくをたらし、ボロボロのやぶれ傘をにぎったまっさおな手! 死人が墓場からさまよいでてきたかと、うたがわれんばかりのすがたです。

おまけに晩秋の、こんなしぐれのふるうすら寒い日に、洗いざらしの単衣ものをきて、たびもはかずに、素足にピチャピチャと、すりへらした下駄をつっかけ、このからだのどこから、いったい、猛犬の五郎丸におどりかかろうとするような、あんな気力がわきでるものでしょうか?