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いきふどう

橘外男ワンダーランド 怪談・怪奇篇

橘 外男

橘外男『橘外男ワンダーランド 怪談・怪奇篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:生不動、逗子物語、仁王門、蒲団、亡霊怪猫屋敷。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 198,400 字 · 387 页

青空文庫

しかもちかごろ人のうわさにきけば、城代はのこされた老母の身を痛く心痛して、あれ以来碁石もフッツリと手にせられず、もっぱら書見にふけっていられるとのこと……さすれば城代のことばにも、いつわりはないものとみなければなりません。もはや老母にも、わが子の見当は、かいもくつかなくなりました。

そしてつれない日のみが、一日二日三日とたって、さしもの暑さもすぎてこのごろは、秋雨のしとしとふる、いとど侘しい日のみがつづいてまいります。

たださえ親ひとり子ひとり、ことには盲目の身の、たよりに思うわが子のゆくえはわからず、いまでは老母は食事もすすまなければ、人とことばをかわすのもものうく、半病人同様のあわれなすがたになり、召使たちもなんともなぐさめることばもなく、胸を痛めておりました。

が、さて、ちょうどそのころの、ある晩のことだったのです。

きょうも朝からじとじとと、こやみもなく時雨がしょぼふって、病床にふしていた老母がふとトロトロと、まどろみにおちたのは、もはや夜も子の刻どき、あるいは草木も眠るうしみつごろであったかもしれません。

ふと見ると、ほのぐらい枕もとのあんどんのかげに、ションボリと両手をついて、くるしげにあえいでいる小姓姿の少年が、もうろうと老母の目にうつってまいりました。