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きかい
機械
横光 利一
「改造 第十二卷第九號」1930(昭和5)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,553 字 · 41 页
しかし、そんなことを口にでも出して饒舌ったら軽部は屋敷をどんな目に逢わすかしれないので暫く黙って彼の様子を見ていることにしていると、屋敷の注意はいつも軽部の槽の揺り方にそそがれているのを私は発見した。屋敷の仕事は真鍮の地金をカセイソーダの溶液中に入れて軽部のすませて来た塩化鉄の腐蝕薬と一緒にそのとき用いたニスやグリューを洗い落す役目なのだが、軽部の仕事の部分はここの製作所の二番目の特長の部分なので、他の製作所では真似することは出来ないのだからそこに見入る屋敷とて当然なことは当然だとしても疑っているときのこととてその当然なことがなお一層疑わしい原因になるのである。しかし、軽部は屋敷に見入られているとますます得意になって調子をとりつつ槽の中の塩化鉄の溶液を揺するのだ。いつものことなら私を疑り出したように軽部とて一応は屋敷を疑わねばならぬ筈だのにそれが事もあろうか軽部は屋敷に槽の揺り方を説明して、地金に書かれた文字というものはいつもこうしてうつ伏せにするもので、すべて金属というものは金属それ自身の重みのために負けるのだから文字以外の部分はそれだけ早く塩化鉄に侵されて腐っていくのだと誰に聞いたものやらむずかしい口調で説明して屋敷に一度バットを揺すってみよとまでいう。