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きかい

機械

横光 利一

「改造 第十二卷第九號」1930(昭和5)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,553 字 · 41 页

青空文庫

それでは昨夜主婦の部屋へ這入っていったのは屋敷ではなく主人だったのかと気がついたのだがいくらいつも金銭を持たされないからといって夜中自分の細君の枕もとの財布を狙って忍び込む主人も主人だと思いながら私もおかしくなり、暗室から出て来たのもそれではあなたかと主人に訊くと、いやそれは知らぬと主人はいう。では暗室から出て来たのだけは矢張り屋敷であろうかそれともその部分だけは夢なのであろうかとまた私は迷い出した。しかし、主婦の部屋へ這入り込んだ男が屋敷でなくて主人だということだけは確に現実だったのだから暗室から出て来た屋敷の姿も全然夢だとばかりも思えなくなって来て、一度消えた屋敷への疑いも反対にまただんだん深くすすんで来た。しかし、そういう疑いというものはひとり疑っていたのでは結局自分自身を疑っていくだけなので何の役にもたたなくなるのは分っているのだ。それより直接屋敷に訊ねて見れば分るのだが、もし訊ねてそれが本当に屋敷だったら屋敷の困るのも決っている。この場合私が屋敷を困らしてみたところで別に私の得になるではなしといって捨てておくには事件は興味があり過ぎて惜しいのだ。