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きかい

機械

横光 利一

「改造 第十二卷第九號」1930(昭和5)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,553 字 · 41 页

青空文庫

私がここの家から放れがたなく感じるのも主人のそのこの上もない善良さからであり、軽部が私の頭の上から金槌を落したりするのも主人のその善良さのためだとすると、善良なんていうことは昔から案外良い働きをして来なかったにちがいない。

さてその日主人と私は地金を買いにいって戻って来るとその途中主人は私に今日はこういう話があったといっていうには自分の家の赤色プレートの製法を五万円で売ってくれというのだが売って良いものかどうだろうかと訊くので、私もそれには答えられずに黙っていると赤色プレートもいつまでも誰れにも考案されないものならともかくもう仲間達が必死にこっそり研究しているので製法を売るなら今の中だという。それもそうだろうと思っても主人の長い苦心の結果の研究を私がとやかくいう権利もなしそうかといって主人ひとりに任しておいては主人はいつの間にか細君のいうままになりそうだし、細君というものはまた目さきのことだけより考えないに決っているのを思うと私もどうかして主人のためになるようにとそればかりがそれからの不思議に私の興味の中心になって来た。家にいても家の中の動きや物品が尽く私の整理を待たねばならぬかのように映り出して来て軽部までがまるで私の家来のように見えて来たのは良いとしても、暇さえあれば覚えて来た弁士の声色ばかり唸って