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れもん

檸檬・ある心の風景 他二十編

梶井 基次郎

梶井基次郎『檸檬・ある心の風景 他二十編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:檸檬、ある心の風景、愛撫、ある崖上の感情、泥濘、闇の絵巻、冬の蠅、冬の日、闇の書、Kの昇天、筧の話、過古、器楽的幻覚、のんきな患者、路上、桜の樹の下には、雪後、城のある町にて、蒼穹、海、温泉。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 127,934 字 · 263 页

青空文庫

というものがどんなものであったか吉田はいつも咳のすんだあと妙な気持がするのだった。吉田は何かきっとそれは自分の寐つく前に読んだ小説かなにかのなかにあったことにちがいないと思うのだったがそれが思い出せなかった。また吉田は「自己の残像」というようなものがあるものなんだなというようなことを思ったりした。それは吉田がもうすっかり咳をするのに疲れてしまって頭を枕へ凭らせていると、それでもやはり小さい咳が出て来る、しかし吉田はもうそんなものにいちいち頸を固くして応じてはいられないと思ってそれを出るままにさせておくと、どうしてもやはり頭はそのたびに動かざるを得ない。するとその「自己の残像」というものがいくつもできるのである。

しかしそんなこともみな苦しかった二週間ほどの間の思い出であった。同じ寐られない晩にしても吉田の心にはもうなにかの快楽を求めるような気持の感じられるような晩もあった。

ある晩は吉田は煙草を眺めていた。床の脇にある火鉢の裾に刻煙草の袋と煙管とが見えている。それは見えているというよりも、吉田が無理をして見ているので、それを見ているということがなんとも言えない楽しい気持を自分に起こさせていることを吉田は感じていた。