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れもん

檸檬・ある心の風景 他二十編

梶井 基次郎

梶井基次郎『檸檬・ある心の風景 他二十編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:檸檬、ある心の風景、愛撫、ある崖上の感情、泥濘、闇の絵巻、冬の蠅、冬の日、闇の書、Kの昇天、筧の話、過古、器楽的幻覚、のんきな患者、路上、桜の樹の下には、雪後、城のある町にて、蒼穹、海、温泉。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 127,934 字 · 263 页

青空文庫

「今日はまだどこへも出られないよ。こちらから見ると顔がまだむくんでいる」

「でも……」

「でもじゃないよ」

「お母さん……」

「お姑さんには行ってもらうさ」

「だから……」

「だから切符は出すさ」

「はじめからそのつもりで言ってるんですわ」信子は窶れの見える顔を、意味のある表情で微笑ませた。(またぼんやりしていらっしゃる)――娘むすめした着物を着ている。それが産み日に近い彼女には裾がはだけ勝ちなくらいだ。

「今日はひょっとしたら大槻の下宿へ寄るかもしれない。家捜しが手間どったら寄らずに帰る」切り取った回数券はじかに細君の手へ渡してやりながら、彼は六ヶ敷い顔でそう言った。

「ここだった」と彼は思った。灌木や竹藪の根が生なました赤土から切口を覗かせている例の切通し坂だった。

――彼がそこへ来かかると、赤土から女の太腿が出ていた。何本も何本もだった。

「何だろう」

「それは××が南洋から持って帰って、庭へ植えている○○の木の根だ」

そう言ったのはいつの間にやって来たのか友人の大槻の声だった。彼は納得がいったような気がした。と同時に切り通しの上は××の屋敷だったと思った。

小時歩いていると今度は田舎道だった。