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れもん

檸檬・ある心の風景 他二十編

梶井 基次郎

梶井基次郎『檸檬・ある心の風景 他二十編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:檸檬、ある心の風景、愛撫、ある崖上の感情、泥濘、闇の絵巻、冬の蠅、冬の日、闇の書、Kの昇天、筧の話、過古、器楽的幻覚、のんきな患者、路上、桜の樹の下には、雪後、城のある町にて、蒼穹、海、温泉。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 127,934 字 · 263 页

青空文庫

これも食後の涼みらしかった。峻に気を兼ねてか静かに話をしている。

口で教えるのにも気がひけたので、彼はわざと花火のあがる方を熱心なふりをして見ていた。

末遠いパノラマのなかで、花火は星水母ほどのさやけさに光っては消えた。海は暮れかけていたが、その方はまだ明るみが残っていた。

しばらくすると少年達もそれに気がついた。彼は心の中で喜んだ。

「四十九」

「ああ。四十九」

そんなことを言いあいながら、一度あがって次あがるまでの時間を数えている。彼はそれらの会話をきくともなしに聞いていた。

「××ちゃん。花は」

「フロラ」一番年のいったのがそんなに答えている。――

城でのそれを憶い出しながら、彼は家へ帰って来た。家の近くまで来ると、隣家の人が峻の顔を見た。そして慌てたように

「帰っておいでなしたぞな」と家へ言い入れた。

奇術が何とか座にかかっているのを見にゆこうかと言っていたのを、峻がぽっと出てしまったので騒いでいたのである。

「あ。どうも」と言うと、義兄は笑いながら

「はっきり言うとかんのがいかんのやさ」と姉に背負わせた。姉も笑いながら衣服を出しかけた。彼が城へ行っている間に姉も信子(義兄の妹)もこってり化粧をしていた。