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れもん
檸檬・ある心の風景 他二十編
梶井基次郎『檸檬・ある心の風景 他二十編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:檸檬、ある心の風景、愛撫、ある崖上の感情、泥濘、闇の絵巻、冬の蠅、冬の日、闇の書、Kの昇天、筧の話、過古、器楽的幻覚、のんきな患者、路上、桜の樹の下には、雪後、城のある町にて、蒼穹、海、温泉。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 127,934 字 · 263 页
峻は腸チブスではないかと思った。枕元で兄が
「医者さんを呼びに遣ろうかな」と言っている。
「まあよろしいわな。かい虫かもしれませんで」そして峻にともつかず兄にともつかず
「昨日あないに暑かったのに、歩いて帰って来る道で汗がちっとも出なんだの」と弱よわしく言っている。
その前の日の午後、少し浮かぬ顔で遠くから帰って来るのが見え、勝子と二人で窓からふざけながら囃し立てた。
「勝子、あれどこの人?」
「あら。お母さんや。お母さんや」
「嘘いえ。他所のおばさんだよ。見ておいで。家へは這入らないから」
その時の顔を峻は思い出した。少し変だったことは少し変だった。家のなかばかりで見馴れている家族を、ふと往来で他所目に見る――そんな珍しい気持で見た故と峻は思っていたが、少し力がないようでもあった。
医者が来て、やはりチブスの疑いがあると言って帰った。峻は階下で困った顔を兄とつき合わせた。兄の顔には苦しい微笑が凝っていた。
腎臓の故障だったことがわかった。舌の苔がなんとかで、と言って明瞭にチブスとも言い兼ねていた由を言って、医者も元気に帰って行った。
この家へ嫁いで来てから、病気で寝たのはこれで二度目だと姉が言った。