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れもん

檸檬・ある心の風景 他二十編

梶井 基次郎

梶井基次郎『檸檬・ある心の風景 他二十編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:檸檬、ある心の風景、愛撫、ある崖上の感情、泥濘、闇の絵巻、冬の蠅、冬の日、闇の書、Kの昇天、筧の話、過古、器楽的幻覚、のんきな患者、路上、桜の樹の下には、雪後、城のある町にて、蒼穹、海、温泉。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 127,934 字 · 263 页

青空文庫

また男女という想像の由って来るところもわかっていた。それは溪の上にだるま茶屋があって、そこの女が客と夜更けて湯へやって来ることがありうべきことだったのである。そういうことがわかっていながらやはり変に気になるのである。男女の話声が水口の水の音だとわかっていながら、不可抗的に実体をまとい出す。その実体がまた変に幽霊のような性質のものに思えて来る。いよいよそうなって来ると私はどうでも一度隣の湯を覗いて見てそれを確めないではいられなくなる。それで私はほんとうにそんな人達が来ているときには自分の顔が変な顔をしていないようにその用意をしながら、とりあいの窓のところまで行ってその硝子戸を開けて見るのである。しかし案の定なんにもいない。

次は客の湯の方へはいっているときである。例によって村の湯の方がどうも気になる。今度は男女の話声ではない。気になるのはさっきの溪への出口なのである。そこから変な奴がはいって来そうな気がしてならない。変な奴ってどんな奴なんだと人はきくにちがいない。それが実にいやな変な奴なのである。陰鬱な顔をしている。河鹿のような膚をしている。そいつが毎夜極った時刻に溪から湯へ漬かりに来るのである。