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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,781 字 · 235 页

青空文庫

二人がその土間にはいった時には、まだそとは明るかったが、蚊のうなりがぶんぶん聞えていた。宝鏡先生は、糊気のない、よれよれの浴衣の襟をはだけ、胸毛をのぞかせて出て来たが、土間に立っている生徒の一人が次郎だとわかると、ちょっといやな顔をした。そして、次郎よりもずっと体格のいい新賀がそのうしろに突っ立っているのを、うさんくさそうに見たあと、

「本田と新賀じゃな。何しに来たんじゃ。」

と、いくぶん身構えるような態度で言った。

二人は、少からず面喰らった。しかし、どちらも、それで腹を立てたような様子はなかった。次郎はぴょこりと頭をさげて、

「新賀君と二人で、お荷物のお手伝いに来ました。」

先生は、拍子ぬけがしたように、二人の顔を見くらべた。しかし、まだ安心がならぬといった眼をして、

「荷物の手伝い? それはもう人をやとってあるんじゃ。」

「そんなら、何か使い走りでもさして下さい。何でもやります。」

今度は、新賀が言った。

「うむ。――」

と、先生は、急に二人から眼をはなした。同時に、首をそろそろと垂れはじめたが、垂れ終ったところで、何かを払いのけるように、二三度それを横に振った。