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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
03 第三部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,781 字 · 235 页
いや、父さんこそは誰よりも大きな辱かしめをうけた人だったのだ。)
彼の心は、そう気がつくと今までとはちがった意味でうずきはじめた。先生や友人に対する自分の面目、そんなものは、自分が父に与えた恥辱にくらべると物の数ではなかった。春月亭のお内儀のまえに手をついて、陳弁し謝罪しなければならない父、――思っただけで、彼は身ぶるいした。
「次郎さん、こうなったからには、もう、お祖母さんの仰しゃるように、押しづよく出るより手はありませんよ。……しかし、旦那が帰っておいでたら、何と仰しゃいますかね。」
さっきから、店のあがり框に腰かけて、首をふったり、額を掌で叩いたりして考えこんでいた仙吉は、いかにもなげやった調子で、そう言いながら、ひょいと立ちあがって、売場の方に歩いて行った。そして、酒甕と酒甕との間にさしこんであった物尺をとって上酒の方の甕に突きこみ、中身の分量をはかっていたが、
「あと二升あまり這入っていますが、これはこのままじゃあ、下酒の方にもまわせませんね。かといって、新しい樽がはいるまでには腐ってしまいましょうし、……いっそ捨ててしまいましょうか。」
次郎は、しかし、それに受け答えする余裕もなかった。