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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,781 字 · 235 页

青空文庫

彼は、その中にはいり、すぐごろりと仰向きにねころんで、両掌を枕にした。

内部の朽ちた木膚が不規則な円錐形をなして、すぐ顔の上に蔽いかぶさっている。下の方は、すれて滑らかなつやさえ出ているが、上に行くに従って、きめが荒く、さわったらぼろぼろとくずれそうに思える。円錐形の頂上にあたるところは渦巻くようにねじれていて、その奥から、闇が大きな蜘蛛の足のように影をなげている。次郎の眼が、そうした光景を観察したのも、しかし、ほんの一瞬だった。彼は、ねころぶとすぐ、ふかいため息をついて瞼をとじた。そして、心のうずきが、ぴくぴくと眉根を伝わって来るのをじっと我慢した。

「次郎は、そりゃあ、小さい時から頭の仂く子でね。それに、だいいち、思いきりがいいんだよ。」

お祖母さんがさっき言ったそんな言葉が、そのうちに、彼の記憶を否応なしに遠い過去にねじ向けて行った。今の彼にとっては、そんな言葉にふさわしい彼の過去は、思い出しても身の縮むようなことばかりだった。とりわけ、お祖母さんが大事にかくしていた羊羹の折箱を盗み出して、下駄でふみにじった時の記憶が、膚寒いほどの思いで蘇って来た。