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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,781 字 · 235 页

青空文庫

「大丈夫かい、次郎君。」

大沢がうしろをふり向いてにっこり笑った。恭一もちらと次郎の顔をのぞいたが、その眼は寒く淋しそうだった。

日はもう暮れかかって、崖下を流れる深い谷川の音がいやに三人の耳につき出していた。水際に沿って細長く張っている白い氷の上に落葉が点々と凍みついていたが、それが次郎の眼には、さっきから、大きな蛇の背紋のように見えていたのである。

「大丈夫です。」

次郎は、力んでそうは答えたものの、さすがに泣出したい気持だった。

「ひもじいだろう。」

大沢は彼と肩をならべながら、またたずねた。

「ううん。」

「あかぎれが痛むんかい。」

「ううん。」

「寒かあないだろうね。」

「ううん。」

次郎は、じっさい、寒いとは少しも感じていなかった。外套なしの制服で、下にはシャツ一枚だったが、坂道を歩くには、それでちょうどよかったのである。しかし、ひもじくないというのも、あかぎれが痛くないというのも、たしかに嘘だった。何しろ、今朝歩き出してから、弁当の握飯の外には水を飲んだだけだったし、足は足袋なしの下駄ばきだったのだから。

「もう少し行ったらきっと家が見つかるだろう。