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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,781 字 · 235 页

青空文庫

しかし、答えはどちらからもなかった。二人はただ微笑しているだけだった。

「それで、本田さんは、あの意味、ご自分でお解きになりましたの?」

「そりゃあ解いたとも、さすがに苦しんだだけあって、お前なんかのように二日も三日もひねりまわしてはいないよ。そこが遊びと血の出るような体験とのちがいでね。」

「まあ、遊びだなんて。」

と、奥さんは、心からの不平でもなさそうに笑いながら言ったが、急に眉根をよせて、

「でも、本田さん、そんなにお苦しみになりまして?」

「そりゃあ、本田の年頃にしちゃあ相当の苦しみだったろうよ。とにかく料理屋のお内儀を相手に鑿をふるおうというんだからね。」

「鑿を?」

奥さんは眼を円くして次郎を見た。

「はっはっはっ。鑿って、さっきのミケランゼロの話だよ。本田は、つまり、そのお内儀を女神に刻みあげてやろうというわけだったんだ。」

「あら、そう。あたし、すっかりほんとうの鑿かと思って、どきりとしましたわ。ほほほ。」

「まさか、ごろつきではあるまいし、ねえ本田。」

と、朝倉先生は、また大きく笑った。

次郎は、しかし、少しも笑わなかった。彼は、むしろ、いくぶん暗い顔をして二人の話に耳を傾けていたが、先生の笑い声がしずまると、だしぬけに言った。