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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,781 字 · 235 页

青空文庫

「起きろっ。」

「出て来いっ。」

「ぐずぐずすると、身のためにならんぞっ。」

それは一人や二人の声ではないらしかった。次郎は、さすがに胸がどきついて、息づかいが荒くなるのをどうすることも出来なかった。彼はそっと恭一をゆすぶってみた。すると恭一は、もうとうに眼をさましていたらしく、次郎の手を握って静かにせい、と合図をした。同時に、

「僕に任しとけ。」

と、大沢の囁く声がきこえた。

そとの人声は、しばらく戸口のところにかたまって、がやがや騒いでいたが、

「きっと、ここじゃよ。路をこっちにおりたとこまで、おらあ見届けておいたんじゃよ。あけてみい。」

と誰かが命ずるように言った。

戸ががらりとあくと、提灯の灯らしい、黄色い明りが、屋根うらの煤けた竹をうっすらと光らした。それが、闇に慣れた三人の眼には、眩ゆいように感じられた。

「おや、一人ではねえぞ。あいつは靴じゃったが、下駄もある。」

「靴が二足あるでねえか。すると三人じゃよ。」

「そうじゃ、たしかに三人じゃ。ようし、のがすなっ。一人ものがすなっ。」

誰かが変に力んだ声で言った。

「おい、書生、にせ学生、出て来いっ。」