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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,781 字 · 235 页

青空文庫

そのうちに、教室の中の気配が変に騒がしくなって来た。言葉ははっきりと聞きとれなかったが、先生が何か言うと、生徒が方々からそれに突っかかっているような様子である。次郎はじっと耳をすました。すると、廊下に面した磨硝子の窓の近くの席から、よく聞きとれる声がきこえた。

「本田は、ふだんから先生のあら探しなんかする生徒ではありません。それは僕がよく知っています。」

その声の主は、次郎がこのごろ急に親しくなり出した新賀峰雄にちがいなかった。新賀はいつも、ずばずばとものを言う生徒だりた。体格もりっぱで、顔にどことなく気品があり、入学の当初から、おれは将来は海軍に行くんだ、といつも言っていた。

新賀の声に応じて、「そうです、そうです」と叫ぶ声があちらこちらから聞えた。次郎はそれを聞くと、なぜか急に泣きたくなった。彼は一散に廊下を走って校庭に出た。そして、かつて五年生の室崎を向こうにまわし、必死の戦いをいどんだことのある銃器庫の陰に身をかくして、しきりに涙をふいた。

鐘が鳴り、更につぎの時間の鐘が鳴っても、彼はそこを動かなかった、無届で早引をしたり、あいだの時間を休んだりすることは、校則でとりわけ厳重に禁じられているのを、百も承知の彼だったが、そんなことは、彼にとって今は全く問題ではなかった、彼は考えれば考えるほど、無念