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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,781 字 · 235 页

青空文庫

」

大沢が、持っていた本を棚にかえし、自分の席にもどりながら答えた。

次郎と新賀とは、さっきからお辞儀をする機会を待って、もじもじしていたが、先生は、

「うむ、そうか。」

と、まだ立ったままで、羽織の紐をかけていた。

「こちらが新賀君、むこうは僕の弟です。」

恭一が先生の顔を下からのぞきながら紹介した。

「ほう。」

と、先生は、まだ二人の方を見ない。そして、やはり羽織の紐をいじくっていたが、やっとそれがかかったらしく、

「やあ、いらっしゃい。」

と、自分の座蒲団に尻をおろし、はじめてみんなとお辞儀をかわした。

次郎は、今日のことで、さっそく先生に何とか言葉をかけられるだろうと予期して、固くなって待っていた。しかし、先生は、ちょっと彼の顔を見て、

「おお、そうそう、君は本田の弟だったな。」

と、言ったきり、すぐ新賀の方に話しかけた。新賀は例によって問われることをはきはきと答えた。

「ほう海軍か。そりゃいい。一年の時からちゃんと志望をきめて、まっしぐらに進むのはいいことだ。」

先生は、それから、海軍の名高い人たちの逸話などを例にひいて、新賀を励ましたり、戒めたりした。