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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,781 字 · 235 页

青空文庫

かりに君らが、君らの体の中の糞尿のことばかり気にかけて、朝から晩まで便所通いをしているとしたら、いったいどうだ。それよりは、お茶が出たらお茶を飲み、煎餅が出たら煎餅をかじって、糞尿のことなんか忘れている方が遙かに健全だろう。」

みんなが、一度に吹き出した。奥さんも声を立てて笑った。そして煎餅の袋をみんなの方へ押しやりながら、

「さあ、さあ、みなさん、先生にみなさんの健全なところを見せてあげて下さい。」

大沢から、恭一、新賀、次郎と、順々に袋がまわった。しばらくは煎餅を噛む音でさわがしかった。大沢は、茶を一ぱい飲み干すと、

「しかし先生、糞尿の溜めっ放しでも困るでしょう。」

「そりゃあ、むろんさ。臓腑の中が糞尿だらけになっては、たまらんよ。」

「不正を不正と知りながら、それと妥協するのは、糞尿を溜めっ放しにするのと同じではありませんか。僕は、新賀君の言う所にも道理があると思うんです。」

新賀は眼をかがやかして、先生を見た。

「むろん道理がある。だから、新賀が、良心的にどうしてもそうでなくちゃならんと考えるなら、新賀にとっては、それが最善の道だ。」

「新賀君以外の人にとっては、最善の道ではないんですか。