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おうしゅうきこう
欧洲紀行
横光 利一
横光利一『欧洲紀行』。同一底本的分册已合并为一书。收入:欧洲紀行、静安寺の碑文、北京と巴里(覚書)、我等と日本、スフィンクス(覚書)。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,107 字 · 241 页
行動を見失うときに際して、常にこの無の精神が、地上に下る雲の如く、もろもろの観念の統一を行いつつ、しかもなお、今に至るまで、一般には了解され難い働きをする思想であります。いかなる国民の中にも、自国民の理解し難い一点を、常に神は与えてやまないものであります。これに触れるが否や、大騒動が勃発するという死点、この危機に今や日本は面しておりますが、かかるときには、日本民族本来の無の精神は直ちに実行を見出し、外国人が常に日本人に対して抱くところの、かの腹切りとなって、生命を無にして後悔することもないのであります。アンドレ・ジイド氏はこのように言います。いかなる事に於ても、自身の生命を投げ出すことに優る尊いものはないと。
このジイド氏の思想は、デカルト以来続いたフランスの理智の敗北でありましょうか、または、勝利でありましょうか、それは今なおわれわれの最も疑問とするところでありますが、かのモンテェニュの代表する死の回避の智的なフランス精神とは、ひどく違った、東洋的な無の思想に感じられるのであります。
しかも、それは死の問題のみに関してではありません。一方に於て、われわれ日本人の無の精神は、アンドレ・ジイド氏の思想と同様、生の問題に関しても、行動に於て、思想に於て、自然に返る作用を力強くいたします。