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かしゅう『わくい』をよむ
歌集『涌井』を読む
和辻 哲郎
「余情 第十集」1949(昭和24)年6月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,550 字 · 5 页
弟と笹の葉とりに山に行き粽つくりし土産物ばなし
ここへ来る一里あまりの田のへりを近路といへばまた帰り行く
などと歌われている。農村の生活が実にしみじみと心に浮かんでくる。田植えの歌のなかにも、
苗代ののこりくづして苗束をつくり急げり日の暮れぬとに
などというのがある。田植えのころの活気立った農村の気持ちのみならず、稲の苗、田の水や泥、などの感触をまでまざまざと思い起こさせる。
こういう仕方でやがて夏になり、野萩の咲くころとなり、秋に入り、雪を迎え、新年になる。遅い山国の春にも紅梅が咲き、雪が解け、やがて猫やなぎがほほけ、つくしがのび、再び蓮華草の田がすきかえされ、初雷の聞こえるころになる。その間の数多い歌が、実に豊かに山村の風物を描き出している。しかもその歌がそれぞれに玉のように美しい。実に得難い歌集である。
老年の先生を信州の山の中に追いやった戦禍のことを思うと、まことに心ふさがる思いがするが、しかしそれが機縁になってこの歌集が生まれたことを思えば、悪いことばかりではなかったという気もする。
田舎住なま薪焚きてむせべども躑躅山吹花咲くさかり
(昭和二十三年十一月)