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うたまろざんげ

歌麿懺悔

邦枝 完二

江戸名人伝

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,396 字 · 23 页

青空文庫

おもてを流して通る簾売の声が、高く低く聞こえていた。

「師匠」

「えッ」

その声に、ぎょっとして面を上げた歌麿の、くぼんだ眼に映ったのは、庭先に佇んだ、同心渡辺金兵衛の姿であった。

五

この後、金兵衛の姿は、常に魔の如く、歌麿の脳裡にこびりついて、寸時も消えることがなかった。

その金兵衛に、ところもあろうに、初めて訪ねた陰女の家で会ったのだった。跣足のまま逃げた歌麿が、駕籠屋を呼ぶにさえ、満足に口がきけなかったのも、無理ではなかった。

「師匠」

昨夜の様子を、一刻も速く聞きたかったのであろう。まだ六つが鳴って間もないというのに彫師の亀吉は、にやにや笑いながら、画室の障子に手をかけた。

「師匠。――おや、こいつアいけねえ。ゆうべのお疲れでまだ夢の最中でげすね」

ふところから、叺と鉈豆煙管を取出した亀吉は、もう一度にやりと笑うと、おつねの出してくれた煙草盆で二三服立続けにすぱりすぱりとやっていたが、頭から夜具を被った歌麿が、小揺ぎもしないのにいささか拍子抜けがしたのであろう。しばし口の中で、何かぶつぶつ呟くと、立って、勝手許にいるおつね婆のほうへ出かけて行った。