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しょうたい
正体
山本 周五郎
「アサヒグラフ」 1936(昭和11)年3月11日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,312 字 · 15 页
ある、かえって龍助が破棄しようとする裸体にこそ、津川の知っている佐知子が描き出せているのではないか?
「いったい」
と津川は呟いた、「それにしても杉田はこんなにたくさん描いて、佐知子の何を描こうとしたのであろうか」
津川は初七日のすむまで神戸にいた。
そのあいだ三度ほど佐知子に会ったが、彼女の態度は初めの夜と少しも変らず、津川を見る眼つきにも応待にも、まったく感情の動く気配が見られなかった、そのあいだに津川のほうでも自分の気持の変化していくのに気付き始めていた。龍助危篤の電報を手にしてから汽車に乗っているあいだじゅう、右も左もなくはちきれそうにふくれあがっていた佐知子への情熱が、いつかおそろしく平凡な悔恨に変り、かつての情事の思出さえが嫌悪になってきた。
初七日の待夜の法事はにぎやかだった。大阪や京都から画描き仲間が七八人集まり、故人の親族とはべつの部屋で酒が出された。八木良太は津川の知らぬ故人の友で矢走院吉という脚本作家と龍助の遺作展をしようと提議を出し、それには幸い皆ここに集まっているからとりあえず画の選抜をしようと云って、みんなで画室のほうへでかけて行った。