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しょうたい
正体
山本 周五郎
「アサヒグラフ」 1936(昭和11)年3月11日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,312 字 · 15 页
そんなことが二三度続いたあとで、
「どうしたんだ、君たちはまるでお互いに逃げあっているみたいじゃないか」
と龍助が云ったりした。
東京をひきあげると間もなく龍助の態度が変ってきた。もっともフランスから帰った時分にもう彼のようすは変っていたのだ、それまでは本当にただ金持のお坊ちゃんが画を描いているというだけで、性格から云っても人好きの良い派手なことのすきな、悪く云うと浮っ調子だった彼が、すっかり沈みこんで、口も重くなり動作も鈍くなり、ともすれば相手の言葉の裏をさぐるような暗い眼つきをするのだ、着物の好みなどもひどく地味になったし、相貌までが生気を喪って、いつも額を蒼くし眉を顰めているというふうになった。
露悪的にしかものを表現することのできぬ仲間の一人は、
「杉田のやつは腎虚だぜ、あの女房はあいつの感覚には淫蕩すぎるんだ」
と評したが、それはたんなる言葉として、その言葉のもつ印象にはしかし誰にも否定しがたい多分の実感があったのである。
龍助はだんだんと仲間から離れていった。たまに上京することがあっても誰にも会わずに帰るし、三五人ある関西の友達ともまるっきり付合わなくなった。