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しょうたい

正体

山本 周五郎

「アサヒグラフ」 1936(昭和11)年3月11日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,312 字 · 15 页

青空文庫

その次には裸体があった、全裸が五点、ことに人物八十号へ描いた一点は床に仰臥したもので、とうてい一般に展観することのできぬ猥がましい大胆なポオズである。

「ああそれはどむならん」

八木はひと眼見て云った、「そいつは杉田も失敗の作だよって破いてくれ云いおった」

「破けって――?」

津川は訊きかえしながら、取除けようとする八木の手を押え、電燈の直射を避けるところへ置直して喰い入るように見入った。

それは見れば見るほど放恣な淫卑な筆つきである、あらわにひろげられた内腿には静脈がうき、双の眼は怠惰な倦怠と溶けるような欲望との入混った不思議な赤みがさしている、右手を頭の後へ廻し左手はくったりと床の外へ垂れている、ぬめぬめと濡れている口辺、まるみと力の籠っている腹のふくらみ、それから伸ばした左足の指が強く内側へかがめられていて、それが流れている全体の線の調子を壊していると同時に、ひどく肉感的な暗示をもっているのだ。

津川はしばらくその画を凝視していたが、やがてまた始めから見直しにかかった。彼は丹念に一枚一枚見て行った。

「どや、それなんか立派やろ。洋行まえには金持のお道楽や思うていたし、実際帰ってから展覧会へ出したものやって皆駄物やったが、あいつ家へ引籠りだしてからこんな傑作を描きよった、これなら大威張りで遺作展やれるぜ」