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せいぎ
正義
浜尾 四郎
「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,327 字 · 43 页
衣川は亢奮した顔付で清川の手を握った。
「衣川さん、礼を云うのはまだ早すぎます。僕が何故今まで黙って居たか、之には深い理由があるのです。僕は或は今日あなたに会った事を後悔するかもしれません。或は亦あなたも……」
「君、馬鹿な事を云っては困る。如何なる理由があろうとも、無実の罪を着ようという人間を目前にひかえて居ながら君、何を躊躇したんだ。何で又後悔する事があるんだ。君は知ってるだろうが、強盗殺人の刑は、死刑か無期懲役か二つしかないんだぜ。君は森木が無罪な事を知って居る。又は知っているという男を知って居る。それで居て何を考えるのだ……」
「深い理由があるものだから!」
「いや、どんな理由があろうともだ、正義、そうだ。正義が正に蹂躙されんとしている今……」
「衣川さん、僕はその正義という事を考えていたものですから」
「無辜の者がかくの如き刑罰を言渡されはしないか、という今、それを黙って見ていて、どこに正義がある! 一体正義という事は……いや、議論はあとでするとしよう。ともかく君の知ってる話だけでもしてくれ給え」
強いて心の激動を抑えつけながら、衣川は清川に迫った。