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せいぎ

正義

浜尾 四郎

「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,327 字 · 43 页

青空文庫

そうして、偶然にもとなりのMホテルの一〇三号室の上の方の廻転窓のところだけが、あいていたのでガラスを通して室内の一部だけを見ていたのです。

Aが何心なくそこを見たのは夜の十二時頃だったそうです。そこからは室内のスタンドの明るみで、ベッドの一部分だけが見えたのです。と云っても之は後の話ですがね。いくら近くても肉眼でそうはっきり見えるわけはありません。はじめは別に注意していなかったので、それがベッドの一部分であることもわからなかった。ところが何かの拍子で突然ピカッと光るものが見えたのです。それが一度ならず目に映じたものだから、Aは急に好奇心をおこして、そばにあったオペラグラスを取り出して一生懸命にピントをあわせて見たのです。すると、男のらしい頭と、片手とが見えました。光るものをよく注意して見るとそれがピストルの銃身らしい事が判ったのです。つまり一〇三号室の中でピストルをいじっているのが見えたわけです。

Aはなお息を殺して眺めていると、突然見えていた手が引込んでしまって、それ切りしばらくは何も動かなくなってしまった。それで、もう何事もないのかと思って、目からグラスを外そうとした刹那、彼は再び片腕を見ました。