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せいぎ

正義

浜尾 四郎

「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,327 字 · 43 页

青空文庫

けれどそれは何といっても卑怯なごまかしにすぎませんでした。昨夜もあなたから云われた通り、僕は何としても事実を打明ける心がにぶって居り、そのくせ或る程度まであなたに知らせるという矛盾した行動をとらなくてはならなくなったのでした。

斯うやって此の不幸な僕は、いつまでこの苦しみの中にもがいて居なければならぬのか、そう思い悩みながら僕は昨夜うちに帰ったのでした。

けれども悲劇はついに大詰にまで進みました。弟は、この兄のくるしみも察せず、昨夜ついに死の旅路についてしまったのです。

僕が、あなたを訪問したことを知った彼はすべてを僕があなたに打明けると思ったのでしょう。そうして法律家としてあなたがとらるべき道を察したのでしょう。彼は、一片の遺書を残して、大吹雪の中を、東京をあとに旅に出てしまいました。頼みがいない兄と思ったでしょう。或は又正しいことを一歩もまげない兄とも思ったでしょう。

弟はかねて好んで居たS県のA山麓で死にたい、と書き残しました。そうしておそらくは、その恋の結末として、婦人をも道づれにするでしょう。遺書によれば、かねて相手の女もこの場合あるを覚悟していたそうですから。