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せいぎ

正義

浜尾 四郎

「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,327 字 · 43 页

青空文庫

「藤山君、勝負は僕の勝だよ」

「…………」

いたましい家庭の悲劇を知っている藤山検事は、不意に衣川にこう云われて何のことか一寸判らなかった。

「藤山君、森木国松の事件だよ」

「ああ、あれか、あれは君、弁護の辞任届が出ているが……今、養生が大切なんだから無理もない」

「藤山君、勝負は僕の勝だよ。あれは有罪だと思って弁護を辞したのではないよ。いやその逆なんだ。森木国松は絶対に無罪だよ。君、君はとんでもないまちがいをしているのだぞ」

「…………」

「藤山君、もう一言君に云っておく。Let justice be done though heaven fall だ。しかし何が Justice か、僕らは考えて見る必要があるよ」

こう云うと、冷い気味の悪い微笑を唇の辺に浮べながら、衣川柳太郎は病床にあって、再び目をとじた。

(一九三〇年四月)