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しょうせつのかきおき
正雪の遺書
国枝 史郎
「サンデー毎日」1924(大正13)年4月1日春季特別号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,367 字 · 15 页
踏み込んでも参らぬ気勢に、私共は心を落ちつかせ静かな最期を遂げようと差し控えて居るのでございます。
そうして私は貴郎宛のこの遺書を認めて居るのです。
先程奉行所から、手付与力の田中万右衛門殿と小林三八郎殿とが、
「当家宿泊の由井正雪殿に少しく尋ねたき仔細ござれば奉行所まで同道致すように」
と、旅宿の門まで参られましたが、私は「病気」の故を以って堅くお断わり致しました。貴郎はこれをお聞きになったらさぞ御不審に思われましょう。
「それが最初からの手筈ではなかったか。何故正雪は断わったのであろう?」
こう仰せられるに相違ありません。いかにもそれは貴郎と私との二人の間に取り決められた手筈であったことは確かです。
二人の与力に守られて、私は奉行所へ罷り越す。と直ぐ貴郎のご保護の下に、多分のお手当てを頂戴した上、ある方面へ身を隠す。しかし私の一味徒党だけは、一人残らず召捕られる。
――というのが段取りでございました。
しかるにそういう手筈を狂わせ、そういう段取りに背いたばかりか、死なずともよい自分の身を自分から刄で突裂くとは何という愚かな仕打ちであろう。こう貴郎の仰せられることも十分私には解って居ります。