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れきしのおちぼ
歴史の落穂
宮本 百合子
鴎外・漱石・荷風の婦人観にふれて
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,780 字 · 17 页
その焦慮の苦悩は「行人」の「兄」が妻直子に対して「女のスピリットをつかまなければ満足できない」心持に執拗に描かれているのである。
最後の「明暗」に到って、女の俗的才覚、葛藤は複雑な女同士の心理的な交錯に達して、妻のお延と吉川夫人が津田をめぐって、跳梁している。箱根の温泉宿で、これら二人の女に対蹠する気質の清子が現れたところで、私たちは作者の死とともに作品の発展と完結とを奪われたのである。
「明暗」においても、漱石は女が結婚すると人間として悪くなる、少くとも素直でなくなり、品性がよくなくなるという彼の支配的な女性観、すでに「虞美人草」に現れている考えを反覆している。延子とその従妹との対照、お延が伯父から小切手を貰うところの情景などで、漱石は生彩をもってそのことを描いているのである。
結婚すれば女が人間としてわるくなる、という漱石の悲痛な洞察は、だが、漱石の生涯ではついにその本来の理由を見出されなかったし、従って果敢な解決への方向をも示されなかった。
トルストイは、「クロイツェル・ソナタ」を頂上として、結婚生活における人間の堕落を肉体的欲求への堕落に見て、人間性の高揚のために、家庭生活や結婚というものの従来の考えかたを、根本から懐疑し、否定した。