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れきしのおちぼ
歴史の落穂
宮本 百合子
鴎外・漱石・荷風の婦人観にふれて
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,780 字 · 17 页
鴎外の女性観というものは、従って当時の現実生活にある日本の女の生活諸相に対して決してあきたりていなかったであろう。未来の女の生活ということについて、どのような拡大と波瀾と活溌な女らしい活力の流露とを期待されていただろうか。茉莉や杏奴という日本語として字の伝統的感覚においても美しくしかもそのままローマ綴にしたとき、やはり世界の男が、この日本名の姓を彼らの感情に立って識別できるように扱われているところにも、私は鴎外の内部に融合していた西と東との文化的精髄の豊饒さを思う。この豊饒さは、ある意味で日本文化の歴史の中に再び同じ内容ではかえり来ることのないものである。いわば明治という日本の時代の燦光であった。けれども、この豊饒さの中に、どのように深く、どのようにつよく、日本的な矛盾が埋められていたかということは、娘である茉莉氏が、今日、ますます多難な女の道を行きつつある感情の底で、おのずからうなずかれていることではなかろうか。
森鴎外のこと、また茉莉氏の内部発展のことについてはしばらくふれず、近頃、永井荷風の古く書いたものをちょいちょい読んで私は明治四十年前後の日本の知識人の感情というものの組立てを女として実に興味ぶかく感じた。