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れきしのおちぼ
歴史の落穂
宮本 百合子
鴎外・漱石・荷風の婦人観にふれて
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,780 字 · 17 页
実にきわめて少数のもののみが理解し得るのであるとして、自分は、ひとりローマをみて来たものの苦しくよろこばしい回顧、高踏的な孤独感を抱きつつ、真直に日本の全く伝統的なものの中に、再び新たに自ら傷くロマンティシズムで江戸の人情本の世界に没入して行ってしまったのである。
日本の文化と西欧の文化の接触の角度に、いつも何かの形であらわれて来ているというリアクションは、日本文学史の一つの特徴となる相貌である明治、大正の期間に、これが微妙に相関しているのみならず、現代に到って、この点はいっそう複雑化されている。そのあらわれがたとえば一人の作家横光利一氏の個人的な芸術の消長に作用しているばかりでなく、昨今では文化統制の傾向において強められ、さらにその傾向が一般の文化人が世界の文化に対して抱いている感情とは必ずしも一致していない状態にまでおかれている。
荷風のロマンティックな、芸術至上主義風なリアクションは、ヨーロッパ文化の伝統はそのまじりもののない味いにおいて、日本の文化の伝統はまたヨーロッパとは別個なるものとして、あくまでペンキで塗られざる以前の姿において耽美したいという執着によっている。