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しね!
死ね!
豊島 与志雄
「文芸」1934(昭和9)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,979 字 · 18 页
彼のために仕事の邪魔をされることさえ困るのだ。心配にはなるが、もう暫く様子を見てるより外はなかった。
仕事について考えながら、池のふちを歩いていると、おい、と私の肩を叩いた者がある。池にはまだ蓮も藻も芽を出さず、平らにしっとり淀んでる水面に、森影と街の灯とが半々に映って、ちぐはぐな瞑想を誘うのだったが、それから眼をあげて、振向いてみると、彼が立っていた。
「君でもこんな所を散歩することがあるのか。」
不思議そうに私の顔を見て微笑した。が私にも、彼のその晴れやかな顔が不思議に思えた。この前よりひどく瘠せていたが、陰翳がとれたようで、眼の光が澄んでいた。どうしたのだと聞くと、十日間ばかり徹夜の形で或る仕事をすましたと云う。
「仕事の義務だけは果したいのだ。」
それが、彼の所謂本当の仕事かどうか聞きたかったが、彼の晴れやかな表情だけで満足して、私は黙っていた。すると面白い発見をしたといって、彼は嬉しそうに微笑している。私はまたかと思ったが、全く別なことだった。
徹夜をして、夜がほんのりと明けてくる時、雀の声をきくのが実に嬉しかった、と彼は話す。彼の書斎の窓際に大きな椎の木があって、それに沢山雀がきた。