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しね!

死ね!

豊島 与志雄

「文芸」1934(昭和9)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,979 字 · 18 页

青空文庫

気がついてみると、彼の歩き方はふらふらして力がなかった。よほど無理をして仕事をしたに違いなかった。

普通の日本座敷で紫檀の卓で、二三の料理に老酒を飲んでるうち、彼は淋しい顔をして、呼んでもいいかときいた。千代子のことだ。私は分ってはいたが黙っていたのだった。

彼女は黒襟のかかった平素着でやってきた。やはり朗かそうだった。一体私は、ひどく頼りない感銘を彼女から受けるのだ。何だか磨きの足りない、伝法肌の気まぐれな朗かさが、そうした感銘を与えるのかも知れないが、私はそれを飛行機だと冗談に云っていた。いつも飛行機に乗っているような彼女と、元来はのんびりした物にこだわりのない彼とは、調子が合うのかも知れないが、それがどちらからも一図に心を寄せ合うと、これはどうにもいけないと私にも危ぶまれるのだった。彼は雀の話を彼女にもしてきかせた。彼女は何か心を打たれたようで、暫く考えこんでしまった。

四五日か一週間旅をしよう、と彼は如何にも呑気そうに云っていた。大丈夫ですかと彼女は尋ね、大丈夫だと彼は答える。お金のことらしい。そうしてもう相談がきまってしまった。これはめちゃだと私は思うのだった。