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しね!

死ね!

豊島 与志雄

「文芸」1934(昭和9)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,979 字 · 18 页

青空文庫

「それが、発見なのだ。」と彼は私に云った。

これはもうどうも仕様がないことかも知れない、そんな気持に私もなって、彼に連れられて、彼女――千代子に逢いにいったのである。

廊下が際立って美しく拭きこまれ、床の間の活花がばかに新鮮で、掛軸の長押の額が古風な、奥の一室で、私と彼とは酒を飲み初めた。二人とも可なり酔っていたが、まだだいぶ飲めそうだった。杯を見ると彼は嬉しそうににこにこしていた。私はともすると考えこみがちだった。

随分待たしておいてから、千代子は息を切らしてやってきた。「おう苦しい。」それが彼への挨拶で、とたんに坐りなおして、しばらくと私に挨拶をした。私は彼と一緒に何度か彼女に逢ったことがある。この前から見ると、彼女はだいぶ痩せていた。それが、大柄な彼女の肉体をいくらか清澄に見せていた。それでも私はともすると彼女に反感を懐きがちだった。彼が怠惰な日々を送って経済上の難局に当面してる一半の責任は、彼女にありはすまいかと疑ってもみた。その上、酒の酔は人を饒舌に無遠慮になす。彼に余り苦労をかけてはいけないよ、と私は彼女に云った。苦労なんか……さも可笑しいというように、彼女はちらりと彼の方を見た。