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しまでをかたる
死までを語る
直木 三十五
「話」1933(昭和8)年9月号~1934(昭和9)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,739 字 · 85 页
「宗一、岡本はん走って、行って、これ何んぼや聞いといで」
と、売りに来た客へ
「すぐ、持って行きまっさ」
というような事を云って、帰しては、私が走って、値を聞いた。そういう物が、少し嵩張ると、父は
「宗一、手伝うて」
と、云って、私に半分、背負わせて、持って行ったり、持って戻ったりした。
電車の出来たのは、それより、ずっと、後であるから、大阪中、何処でも、歩いて行くのである。父は、今年八十三歳で、未だ元気であるから、少々のことは、平気であるが、私は、弱かったから、古着の三十枚も、首へ巻きつけ、肩へのせて、天王寺や、玉造や、淡路町――時として、住吉の近くの勝間辺まで、往復するのは、可成りつらかった。
「若い間に、苦労しとかんと、えろなられへん。わいら、天保銭三枚もって、大阪へきて、こないなったんや」
父は、大抵同じ事を云った。この小僧代理は、思春期に入ると共に、甚だ不愉快なものになった。しかも、真向うに、惚れた女が出来、古着屋という商売が、余り上等でないとわかってきてからは
「宗一、浜はんへ行って、買うたんのとっといで」
と、云われるのが、何より嫌であった。