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しまでをかたる

死までを語る

直木 三十五

「話」1933(昭和8)年9月号~1934(昭和9)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,739 字 · 85 页

青空文庫

食べ物では、今でも、食べたいと思うのは、蒟蒻。今の蒟蒻とは、蒟蒻がちがうらしい。もっと、色の黒い、汚い黒い斑点の入った――それが、実にうまかった。例の、夜店の関東煮屋の品であるが、これも、すっかり無くなった。水飴、和砂糖――飴は今でもすきであるが、瓶へ入ったとろとろの飴など、食べられない。田舎へ行くと捜すが、もう、田舎にもなくなっている。

渋川特務曹長が、千日前の見世物というのを、初めて見せてくれた。見せ物などは、他人の見る物だと、看板ばかり見て、決して、中へ入った事のなかった私は――何うだ、第一に「へらへら坊主と、海女」へ入ったのである。

舞台の前に、水槽があって、その中へ、赤い湯巻一枚の海女が、飛び込んで、中で、踊を踊るのであるが、十か、十一の私には特務曹長の感じるような事は感じない。

(何んだつまらん)

と、思って眺めていたが、今考えると、惜しいものである。何んだつまらんと思うもう一つの理由は、表看板に、海中で、海女が、蛸や、魚と、格闘している図が描いてあるから、その通りの事をして、見せるのだと考えていたせいもある。それが、全くちがったのだから、失望した。