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しまでをかたる
死までを語る
直木 三十五
「話」1933(昭和8)年9月号~1934(昭和9)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,739 字 · 85 页
鏡で、自分で見ると、何処にも、そんな所はないが、人が見ると、いろいろに見えるものと見える。
三十二
学校の思い出は殆ど無い。
中学以来、学校は下らないものだと考えていたのが、確実になっただけである。
親でもなく、叔父でもなく、主人でもなく、先輩でもなく、先生という一つの尊敬と、なつかしさとをもった人格は、確かに、立派な存在であるが、私は、故郷をもたぬように、そうしたなつかしい先生をもたない。中学の木村寛慈先生が、ややそれに近いだけで、時々、先生はいい仕事だとおもうが、そういう人に逢った事はない。
小中学で、本当に、智慧なり、人格なりに、影響を与えてもらった人だったろう。恐らく、親よりもなつかしいと思われるが、そうした教育者は少いらしい。
大阪という土地は、故郷という気のしない所であるし、小中大学に、学校のなつかしさの無い人生は、相当に淋しいものである。
私のように、その精力以上に、働いている者は、時として、故郷というような所で、深い安息を求めたい気がする。
私は、新居へ移ると共に、私の部屋へ引っ込んで、自分で炊事できるだけの道具――土釜、土鍋、七輪の類をととのえた。