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しまでをかたる

死までを語る

直木 三十五

「話」1933(昭和8)年9月号~1934(昭和9)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,739 字 · 85 页

青空文庫

へ入っているし(友人と同じように、文筆関係で生活しようと考えている事は大まちがいだ。そんな事で、こんな事をして、愚図愚図していると、大変な事になるぞ)

私は、金を儲ける事を考えかけたが、何れも資本のいる事であった。その内に、女房が

「もう勤められない」

と、云って、初めて、悲しい顔を見せた。

「何うして」

「明日から十月でしょう」

「うん」

「この着物で――歩けないわ」

冬物が、値がいいので、ことごとく入質して、夏物のみである。この夏物と、冬物は交換できないし、金は無いし、女房は、袷を世間の人が来ているのに、単衣で働いていたのである。

「よし、止めろ」

と、私は言下に答えた。社の内情も、少し知っていたし、これ以上、女房に出来ない事をさしてはおけなかった。明日から何うするか、何の見当もつかなかったが、女房が、うつむいて

「勘弁して下さい」

と、いうと同時に

「止めた方がいい、何うにかなる、心配するな」

と、云って、何かしらやろうという力の、湧いてくるのを感じた。

(以下中断)