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『ししゃのしょ』

『死者の書』

中谷 宇吉郎

「西日本新聞」1955(昭和30)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,070 字 · 3 页

青空文庫

二上山の男嶽女嶽の間から、当麻路が、白々と広く降って来る。「月は、依然として照っていた。山が高いので、光りにあたるものが少なかった。山を照し、谷を輝かして、剰る光りは、また空に跳ね返って、残る隈々までも、鮮やかにうつし出」している。深夜である。

「こう こう こう

鳥の夜声とは、はっきりかわった韻を曳いて来る。声は、暫らく止んだ。静寂は以前に増し、冴え返って」来る。この時、当麻路を降って来るらしい影。「二ツ三ツ五ツ……八ツ九ツ。九人の姿である」「九人と言うよりは九柱の神であった。白い著物、白い鬘、手は、足は、すべて旅の装束である。

こう こう こう。 ……

こう こう。お出でなされ。藤原南家郎女の御魂。……」

此処が偶々滋賀津彦の塚の前だったので、この魂呼いの行者たちは、滋賀津彦のためにも、魂呼いの行をする。その声に和して、おおう……と、「塚穴の深い奥から、冰りきった、而も今息を吹き返したばかりの声」が聞えて来る。郎女は、彼岸の中日、二上山の日の入りに、西国浄土の仏の姿を見る。その幻にひかれて、姫は万法蔵院まで彷い出て、結界を犯した償いに、其処にとどまる。